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世界と日本の卓球~ペンホルダーが衰退した理由と今後

Consideration(考察)

みなさんご承知のように卓球のラケットの握り方には2種類ある。
ペンホルダーとシェークハンドである。

ペンホルダーは読んで字のごとく、筆記用具のペンを持つかのように、グリップを人差し指と親指で挟むように持つ。
シェークハンドはこれまた読んで字のごとく、握手をするように、グリップを握ればよい。

筆者の経歴

筆者は中学時代(80年代後半)卓球部に所属しており、ペンホルダーの表ソフトの選手であった。
いわゆる前陣速攻スタイルである。

筆者自身なぜペンホルダーを選び、表ソフトラバーを張り、前陣速攻のスタイルを選んだのかわからない。
今にして思えば、中学生にありがちな、ただ先輩等の恰好の良さに惚れて決めたようにも思える。

しかしこのことは筆者にとって、運良く団体戦のダブルスでレギュラーを獲得してしまうことへと、つながることになる。

1987年~1992年、全国中学校卓球連盟の取り決めにより、団体戦に必ず一人、表ソフトのペンホルダーの選手を入れる必要があった。
その意図は今となってはわからないが、おそらく、選手育成等のそういった目論見だと思う。

かくして、筆者は1989年の中学3年生の夏、団体戦で近畿大会を優勝し、全国大会にレギュラーとして出場することができたのである。

本題

筆者は近年、卓球大会の会場には足を運んでいないがテレビ中継を見る限り、世界の、特に日本において、ペンホルダーのトップ層の選手がずいぶんと減ったと思う。
1985年(イェテボリ大会)と1987年(ニューデリー大会)の世界選手権で、中国の右ペン表ソフトの前陣速攻選手江加良の2連覇に象徴されるように、1980年代は社会人の世界においてはペンホルダーの選手が優勢であり、スタイル人口も多かったように思う。

しかし、特に日本における筆者ら中学生や高校生のジュニアにおいては、少し事情が違っていたのを今でも忘れられない。
全国中学校卓球大会の優勝者は1988年の稲垣康生をのぞいて、1980年代後半以降はシェークハンドの選手が独占していくのである。
1987年の中田幸信のプレーこそ見ていないものの、1989年のチャンピオン今枝一郎、1990年の仲村錦次郎、1991年の遊澤亮のプレーを全国中学校卓球大会で目の当たりにした。
その時、バックハンドのナチュラルな振り抜き方や、返球のスピードに舌を巻いたのを覚えている。

非常に感覚的な不安がよぎった。
「今後卓球が高速化され、もしもバックハンドの応酬になった時、ペンホルダーは対抗できるのだろうか?」
しかし、前述した1988年のチャンピオン稲垣康生や、同世代の田崎俊雄らが、ペンホルダーでも高速でバックハンドを振り抜いていた。
バックでシェークハンド有利と言っても7:3ぐらいの割合で、ペンホルダーのトップ層の選手は残るだろう、という楽観的な感覚でだった。

一方そのとき世界ではどういう状況になっていたのだろうか?

1989年の西ドイツ(現ドイツ)のドルトムント大会において、中国のペンホルダーの選手達はスウェーデンのワルドナーや、パーソンらシェークハンドの選手たちに個人戦でも団体戦でも大敗したのである。

この要因として当初、中国卓球協会会長”徐寅生”は「ペンホルダーはバックで下回転系のボールを返球することができない」と指摘している。

ペンホルダーの選手ならば誰もが経験することであるが、バックハンドが難点なのである。
スピードボールが来たときはショートで当てて返せばいい。
ただし、緩い球や台から離れて引き合いになった時、ペンの従来のバックハンドは肘をいったん折りたたむ分、時間がかかるのである。
又、徐寅生の指摘しているように、下回転系のボールをペンのバックハンドでドライブ回転をかけて返すなど、とても難しいのである。

世界的に見て1990年代はシェークハンドの全盛となるが、そこで中国は考えた

まず中国産シェークハンドの選手を育成する。
一方でペンホルダーの裏面にラバーを張ることによって、バックハンドを裏面でシェークハンドのように使うやり方をあみだした。
裏面打法である。

しかし、開発当初はラケットの総重量が重くなる、フォアとバックの切り替えが難しいなど、問題があり、実践し功績を残すものはいなかった。

ところがその後中国は、ラケットや技術の改良を重ねて、とうとう功績を残すことになる。

1999年の世界選手権アイントホーフェン大会における、ペンホルダー裏面打法使いの劉国染の優勝である。
劉国染のプレーを見る限り、裏面打法を使う割合は今日の選手から見ればまだまだ一定の頻度だったが、それでも中国は裏面打法が世界で通用することを実証したのである。

その後2000年代に入ると馬琳や王晧、許斤などが裏面打法を実践し、世界トップクラスの実績を残していくことになる。

現在の中国、あるいは日本におけるペンの裏面打法の普及率はどのようなものであろうか?

少し古いデータになるが2006年の仙台大学の大学院生の調査によると、中高生をメインとしているジュニアの世代では、日本・中国ともにシェークハンド7割ペンホルダー3割の使用率の結果だった。
その内の中国のペンホルダー選手の80パーセントが裏面打法を使っているのに対し、日本の選手は0.1パーセントにとどまっていることがわかった。

やや古いデータではあるが彼らが社会人となった今同、じような競技人口の比率だと想定される。

結論

中国においても日本においてもペンホルダーの選手は3割ほどいるものの、日本における裏面打法の普及はかなり中国に後れをとっていると言わざるを得ない。   
一部ペン裏面打法を使う松下大星選手が、2022年の全日本選手権でベスト8に入るなど、有望な選手もいるものの、まだまだペンホルダー裏面打法の選手は日本に少ないのが現状である。

今後ペンホルダーの裏面打法使いの選手の中から、全日本チャンピオンや、世界卓球メダリストが誕生する事を願ってやまないのが、ペンフリークスの筆者の思いである。

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